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2011/08/12 『うま味を発見した男』(本の紹介5)

私たちが感じる味には、甘味、酸味、塩味、苦味(基本4味)があることが古くから知られていました。1908年(明治41年)に、5番目の味である「うま味」に関わる物質として「グルタミン酸ナトリウム」を発見したのが、東京帝国大学教授だった池田菊苗(きくなえ)博士です。この発見は、のちに調味料「味の素」として広く普及しました。「うま味」が世界的に認められるのに少し時間を要しましたが、「基本5味」の確立に大きく寄与した発見です。

今回紹介する本は、『うま味を発見した男 小説・池田菊苗』(上山明博, PHP研究所, \1,785, 2011/6)です。池田博士と多くの人物との出会いが、うま味物質「グルタミン酸ナトリウム」の発見と「味の素」としての発展につながりました。若き日の夏目漱石、恩師・オストワルド、妻・貞、鈴木商店(味の素KKの前身)創設者・鈴木三郎助といった人物が登場しますが、夏目漱石という意外な人物との出会いがこの作品の大きなポイントとなっています。漱石の名作「我輩は猫である」の誕生も、池田菊苗との運命的な出会いがもたらしたようです。


本書の内容は事実にかなり忠実なようですが、小説なのでフィクションの部分もあるかと思います。当時の会話の中で、「食育」や「食の安全」という言葉が出てきますが、このあたりは今日風のアレンジなのでしょう。基礎科学と応用科学、そして特許や社会貢献といったことについても、化学者・池田菊苗の生涯を通して考えさせられます。なお、日本の工業所有権制度(特許制度)が創設百周年を迎えた際に、日本の十大発明家が選定されましたが、池田菊苗博士は鈴木梅太郎や高峰譲吉らと共に選ばれています。

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